作家インタビュー

内田裕子Uchida Yuko

「細かい絵柄をずっと描いているのが本当に楽しくて仕方ありませんでした」

教育大学を卒業後、瀬戸の窯業訓練校で陶芸を学んだ。

繊細な筆遣いで丁寧に絵付けを施された、はんなりと美しい器たち。細かな小紋や花柄で覆われたその姿は、まるで器が着物を纏っているかのようだ。それでいてどこか筆遣いはふんわりと柔らかく、くすりと笑みを浮かべてしまうようなユーモラスさも兼ね備えている。

作者の内田裕子さんは、現在山科を拠点に作陶を行っている。
京都に生まれた内田さんだが、もともとは陶芸の道を目指していたわけではなかったという。当初は教師を志し教育大学で学んでいた。しかし違和感を感じ、卒業後に1年間瀬戸の窯業訓練校で陶芸を学んだ。

「たまたま(窯業訓練校の)張り紙を見たのがきっかけだったんです。それまでは展覧会などで焼き物を見に行ったりはしていたのですが、自分で作ったことはそれまで全くありませんでした。ただ、ものを作るということが楽しそうだなぁ、と感じて焼き物を学ぶことにしたんです」

訓練校を卒業した後、内田さんは陶芸家・滝口和男さんに師事する。

滝口さんは細やかな紋様を丁寧に絵付けする作風で知られるが、内田さん自身は、それまでは成形を主に学んでいたため、絵付けも当時は初体験だったそうだ。
「教えてもらいながら見よう見まねで覚えましたね。でもそれまでやったことのないことだったのでとても新鮮でしたし、細かい絵柄をずっと描いているのが本当に楽しくて仕方ありませんでした」
滝口さんの下では10年ほど学んだ後、1998年に独立。現在は京都だけでなく東京や大阪、神戸など全国各地で個展を開催するなど、忙しい日々を送っている。

「気になったこと、好きなもの。モチーフは日々の生活から得ています」

絵付けの基本は小紋や更紗。
季節感を意識して、遊び心溢れる装飾が特徴。

内田さんが器に描くのは、七宝繋ぎや亀甲、市松といった着物の生地を思わせる古典的な小紋や、更紗、そして桜などの季節の草花文様が中心だ。
絵付けの際は季節感や自分で決めたテーマを意識して描くようにしているという。
シンプルで時期を選ばない器も良いが、春には春、秋には秋、などその時期ならではの表情を演出できるのは、絵付けの器ならではのポイントだ。

絵付けに用いる色も、優しく淡い色調を意識して選んでいるそうだ。繊細な筆遣いと相まって、見ているとほっこりと心和ませてくれる。

内田さんにとっての基本の絵付けはやはり、小紋や更紗などの柄だ。
「実家で母が和裁(着物の仕立て)の仕事をしていたんです。業者の人や近所の人がよく出入りしていて、着物の反物はよく目にしていました。その影響もあるかなと思いますね」

内田さんはモチーフのアイディアは、興味があることや身近なもの、普段の暮らしからヒントを得ることが多いという。日本画的な紅葉や流水紋といった、いかにも焼き物らしい絵付けの柄を学んできたわけではないという内田さんにとって、幼い頃から目にしてきた着物の紋様がもっとも身近で親しみのある「柄」だった。
「京焼ならもっと絵画的な、あえて何も描かない空間を生かしたような描き方の絵付けもあるんでしょうけど…私はどうしてもその「隙間」を埋めたくて仕方なくなってしまうんですよね(笑)」

幼い頃から目にしてきた着物の紋様がモチーフのアイディアになることが多いという。

一方で遊び心あふれるモチーフも、内田さんの作品の特徴だ。
ユニークなものでは、好きなテレビドラマをイメージして足踏みミシンやボビンケースなどを描いてみたり、甲子園に野球の試合を見に行ったことから野球場を描いたりもしたこともあったそうだ。
また、古典的な小紋の中に、かくれんぼでもしているかのようにウサギや犬などの動物の姿が見え隠れした作品は、見つけたときには思わず笑顔になってしまうかわいらしさだ。他にも、器を引っくり返すと普通は見えない高台裏にも絵が描かれていたりする。ついつい、じっくりと器を手にとって全体を眺めたくなってしまう魅力がある。
細かな小紋を描き続けている中に、ふと肩の力を抜いたようなほのぼのとしたモチーフを描くことは、内田さんにとっても良い息抜きになっているそうだ。

「皆同じ、にはしたくないんです」

形が同じでも、同じ絵付けはしない。

同時に、強いこだわりもある。
内田さんは基本的に絵付けは器の素地を見ながら、その時のイメージでデザインしている。その際、たとえ形が同じような器であっても、全く同じ絵付けはしないようにしているそうだ。
例えば、細かな小紋の中にかわいらしいウサギを描きいれた器。複数個のセット作品だが、よく見るとウサギの描かれている位置はどれも異なっており、ひとつひとつが別個の作品として成立している。

「皆同じ、にはしたくないんです。5個組のお皿や湯のみなんかでも、少しずつ違ったものにしたくて、つい手を加えてしまうんですよね」
そのため、アイディアに詰まったり、デザインを考えるのにとても時間がかかってしまうこともあるそうだ。

「全体の8割方くらいまでは、こうしようああしようと考えが出てくるんですけど、なかなか残りが浮かんでこなかったりするんですよね。それでもそれぞれ違ったアイディアを盛り込みたくて…。」
だがこれも、ひとつひとつの作品に真摯に愛情もって向かい合う、内田さんの強い思いの表れだ。

「手にとった人に愛しく思ってもらえる器を作りたい」

肩肘張らない、気取らない、でも楽しいものが好き。

内田さんは作品作りの合間に、趣味でよく展覧会にも出かけるという。しかし日本美術や焼き物などはどうしても仕事と直結してしまうので「真剣に見すぎて、ちょっと疲れてしまう」とのこと。意外なことに現代美術を見に行くことが多いのだそうだ。
「堅実なものも良いけれど、肩の力を抜いて、笑って見られるようなものが好きなんです」
肩肘張らない、気取らない、でも楽しいものが好き。その言葉は、そのまま内田さんの作品にも表れているようだ。繊細でありながら親しげで堅苦しくなく、丁寧かつ遊び心をくすぐる、手に取るとこちらが笑顔になる器。内田さん自身が目指しているのも、そんな器だという。
「この器を見たから、使ったからなんだか楽しい気分になってもらえるような…そんな作品を作りたいですね。大層なことは考えていませんが、私の作ったものを手にとった人に愛しく思ってもらえたら、それで嬉しいです」

普段のおかずも、美しいかわいらしい器や面白い器に盛れば、いつもとは違った表情に感じて楽しい気分になる。そんな風に使ってもらえたら、と内田さんは仰っていた。

日常の中で見つけた美しいもの、楽しいものを丁寧に拾い、それを絵筆を通して器に封じ込めた内田さんの作品たち。内田さんの何気ない日々を愛おしむ優しいまなざしが、思わず愛でたくなる、使う人を幸せにする器を生み出しているのだろう。

内田裕子

1961年
京都市左京区に生まれる
1985年
奈良教育大学卒業
1986年
瀬戸市立窯業訓練校修了
滝口和男に師事
1998年
京都市山科で独立し開窯する
1999年
陶芸秀作展(東京ドーム)
2000年
個展(阪急百貨店本店:大阪)
2001年
個展(アンティークショップ紅中:東京)
2002年
個展(織庵:熊本)
2003年
個展(大丸百貨店:大阪心斎橋)
個展(萌遊:東京)
2004年
個展(楽:神戸)
個展(高島屋京都店 美術工芸サロン)
2005年
個展(小田急新宿店 アートスペース)
2006年
個展(高島屋京都店 美術工芸サロン)
2007年
個展(小田急新宿店 アートスペース)
2008年
個展(大丸百貨店:神戸)
個展(うつわ一客:東京)
個展(高島屋京都店 美術工芸サロン)
2009年
個展(松坂屋本店:名古屋)
個展(大丸百貨店:神戸)
2010年
個展(ギャラリー縄:大阪)

代表作

  • 青彩金唐草 6寸皿

  • 赤彩色紙 花生

  • 魔法のランプ 合子

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