作家インタビュー

谷口左和子Taniguchi Sawako

「純粋に『ものをつくりたい』という思いで陶芸をはじめました」

ガラスのような透明感と滑らかさを持つ谷口さんの作品。

シンプルでやさしい形。磁器でありながら、白や淡い青色はまるでガラスのような透明感と滑らかさを感じさせてくれる。決して目だって自己主張しているような奇抜さはないのに、どこか印象に残る美しさだ。

作者は谷口左和子さん。京都・下鴨を拠点に創作をされている、京都出身の陶芸作家だ。

彼女と陶芸の出会いは大学の時。たまたま、受験した美術の大学で学部を選ぶ必要があったため、陶芸科を選択したことがきっかけだったのだそうだ。

「それまでは、絵を描きたい、とか何か作りたい、とか本当に漠然としたイメージしかなかったんです。でもどちらかといわれると「自分の手で何かを作る」方が好きだったので、それで、陶芸を選びました。純粋に「ものをつくりたい」という思いで始めたんです」

「ものづくり」に興味をもつきっかけは、鞄職人をしていた父。家で作業するその様子を幼い頃から見ていた谷口さんにとって、「ものをつくる」ということは身近なことだった。また、母も陶器や陶芸の産地に行くことが好きだったため、幼い谷口さんは母の後をついて回っていたそうだ。
そしてもちろん、京都は陶芸の盛んな土地柄でもある。
「今考えてみると、元々陶芸は自分にとって遠い存在ではなかったのかな、と思います」

「器は使ってもらってなんぼやと思います」

繊細な表現と吸い込まれそうな色味が、つい手にとってしまいたくなる器をつくる。

大学時代は土もの(陶器)を主に手がけていたという谷口さん。磁器を始めたのは卒業後暫くたってから。土を材料とする陶器と、石の粉を粘土状にして作る磁器では、同じ「焼き物」であっても全く扱いが異なってくる。また、磁器の粘土は非常にきめが細かいため扱いが難しく、苦労したそうだ。
「(今のスタイルには)本当に試行錯誤しながら、やっているうちにたどり着いたという感じでしたね。磁器は教わっていたわけでもなく自己流でやっていたので、「自分」を出せるようになるには時間がかかりました」

その過程の中で生まれた現在の谷口さんの作品は、吸い込まれそうな白や青の色合いが特徴的だ。目立った柄もなくとてもシンプルだが、洗練された、控えめで繊細な美しさが感じられる。それでいてどこか暖かさもあり、不思議とつい手に取りたくなってしまう。

「これは、試行錯誤の中で谷口さんが見つけた、確かなこだわりの形だ。
「透き通ったガラスのような、透明感のあるような器にしたいと思っています。でも、冷たく感じるけれど温かみのあるようなものにしたい、とも思っていて」

「器は使ってこそ生きるもの。どんな料理にも似合う器をつくりたい。」

谷口さんは、料理をよそった際の様子を想像しながら、作品を作っているという。それは、彼女が「使いやすさ」を大切に考えている故だ。
「日々使うものなので、扱いやすいもの、というところにはこだわりがあります。やっぱり器は料理がないと使い道がないので…」

本来、器は料理を盛り付けるために使う道具。使ってこそ生きるものだ。
また、かつて陶芸家・美食家として有名な北大路魯山人が「器は料理のきもの」という言葉を残しているが、器はそこに盛られる料理に調和する、つまり「似合う」ものでなければならない。

実際に使われる姿をイメージしながら、ろくろをまわすという。

その点、谷口さんの作品はどんな料理にも「似合う」。
例えば、滑らかな白磁の「白」や淡い青磁の「青」は主役の料理がなんだろうと、そっと寄り添い引き立たせることができる。また、表面の装飾もさりげなく、決して料理を邪魔しない。いわば「名脇役」だ。

「白磁の白って一番何にでも合うので、料理が一番映えるんです。青磁の色も、意外となんにでも合いますしね。あまりこう、ものがばーんと主張するものではなくて、もっと一歩引いたようなものを心がけています」

その分、重要になってくるのが器のかたち。飾り気や装飾を削ぎ落としたシンプルな作風だからこそ、かたちがストレートに影響してくる。谷口さん自身も、一番重視しているところは「かたちの美しさ」だという。

「形は作っている中で考えます。今回はこういう形をつくろう、って最初から思っていることもありますけれど、大体はろくろをひきながら、ああじゃないこうじゃない、と考えながらです。」

そこで役立っているのが、やはり実際に使われた際のイメージ。
自分で使ってみたいもの、使うことができそうなかたち。そこから発想して生まれた作品もある。
谷口さん自身も、子供を持つ現役の主婦。日々の生活の中で器に触れ合うことが多い立場の経験は、「使いやすい器」を生み出す格好の資料になる。
また、周囲の主婦の友人などに意見を聞き、取り入れていることも多いそうだ。
「本当に主婦の人から聞く、「もう少しこういう形が良い」とか「もう少し大きい方がいいわ」とか…そういう意見はすごく役に立ちます。色々自分でも吸収しながら作っている状態です」

生きた資料から生まれるシンプルで美しいかたち。

洗練されているけれど気取らない、シンプルで美しい形の器たち。それは、まさに「生きた資料」から生まれてきているのだ。

作家もの、と聞くとつい仰々しいものに感じてしまい、「怖くて使えない」と箱に入れっぱなし…ということは結構ある話だ。しかし谷口さんの作品は、むしろ何に使おうか、とこちらに想像させてくれる。

「やっぱり、器はつかってもらってなんぼやと思います。
それに、意外と主張してしまっているものほど、かえってどう使ったらいいのかわからなかったりしますよね。というよりは、私は普段からバンバン、毎日使えるような器を作りたいんです」

「自分の素が一番出せているのが、『食器』だと思います」

「素のままの自分で、日々につかう器をこれからもつくっていきたい。」

谷口さんにこの先作ってみたいものは、と尋ねてみた。すると、「やはりまだ食器、日々使う器を作っていきたい」と返ってきた。
「食器とひとくちにいっても、まだ色々なアイテムがあるやろう、って作っていても思いますし…それに色々な形も出てくるだろうし。その点をもう少し追求していきたいです」

大作は得意ではない、という谷口さん。大学時代はよく大きな壺などに挑戦していたこともあったそうだが、どうしてもそのような作品だと「芸術的なものを作ろう」となると構えてしまうのだという。その点、食器は意識せず、素のままの自分で作れるのだそうだ。

「どうしても『自分を作ってしまう』んです。というか、そうしないとできない。そういうものが得意な方は、すぐ発想が出てくるんでしょうけれど…私は身近なもの、小さいものの方が、無心というか、自分に素直に作れていると思うので。自分の一番素が出せているのが「食器」だと思います」

決して自己主張は激しくなく、どこまでも控えめ。しかしそれでいてどんな場面にも馴染み、素直に「使ってみたい」と思わせてくれる谷口さんの器。そこには、谷口さんの「素直」な思いが確かに宿っている。

谷口左和子

1973年
京都に生まれる
1997年
京都精華大学美術学部造形学科陶芸専攻卒業
2001年
かのん(東京)
2002年
高島屋京都店6F美術工芸サロン(京都)
たち吉創業250周年記念 第1回クラフトコンペ京都陶芸の新しい芽 大賞
2003年
松屋銀座特選和食器コーナー(東京)
OZONE夏の大茶会展
(リビングデザインセンターOZONE:東京)
『染付と青白磁』器展(日本橋高島屋:東京)
更(大津)
かのん(東京)
2004年
更(大津)
器の新しいスタイル(伊勢丹新宿店:東京)
2005年
うつわクウ(芦屋)
2008年
うつわ屋めなみ(京都)
2009年
ギャラリー洛中洛外(京都)
大丸京都店6F美術工芸品売場(京都)
高島屋大阪店6F和洋食器売場 特選サロン(大阪)
うつわクウ(芦屋)
2010年
髙島屋大阪店6F和洋食器売場 特選サロン(大阪)
天満屋岡山店5F画廊アートスペース(岡山)
2011年
ギャラリー洛中洛外(京都)

代表作

  • 白磁二色水流珈琲

  • 青磁輪花高杯

  • 白磁雨だれ水流鉢

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